ショートショート:百貨店

ショートショート

眠い目をこすりながら会社への道を歩いていた。
県庁所在地だと言うのに駅前の百貨店は相変わらずシャッターが閉まったままだ。
先月、50年の歴史に幕を閉じた。
郊外のショッピングモールやネット通販に押されたためだ。
子供の頃は毎週日曜日に家族で買い物に来ていたけど、ここ数年は全く来てないからなぁ。
けど、今まで当たり前のようにあった、街を代表する百貨店が無くなってしまうと急に寂しくなるな。
買い物だけじゃなくて、精神的にも街全体を支えてくれていたんだろうな。

***

なんかお腹が空いてきた。
下のコンビニでドーナツとコーヒーでも買ってこようかな。
あっ、部長が会議から帰ってきた。
相変わらず冴えない顔しているな。
きっとまた社長や専務に怒られたのだろう。
本当、ダメだよな。
それにひきかえ隣の部署の部長はカッコいいな。
外資系から転職してきたエリートだもんな。
有名私立大卒でMBAも持ってるらしい。
なによりいつも高そうなスーツでビシッときまってるよな。

***

今日から新しい部長が来る。
先月の人事異動で部長が支店に飛ばされ、隣のカッコいい部長がうちの部署に異動になった。
可哀そうだけどそうなっちゃうよな。
新しい部長はどんな感じなんだろう。
ちょっと楽しみ。

***

あれから半年経った。
あれっ、なんか変だな。
部署が少しずつ殺伐としてきてるんじゃないか?

新しい部長は社長や専務のところばかりにいて、うちの部署にはほとんどいない。
経営会議からは意気揚々と帰ってくるけど、次の日の朝礼では必ず説教が始まる。

売上げを上げろ!
残業を減らせ!
営業部門だけじゃなく、生産部門も営業に行け!
毎朝、朝礼で社訓を大声で読め!
社長の書いた本を読んで感想文を書け!

外資系から来たにしては言ってることはもろ昔の体育会系だな。
と言うか、80歳近い社長のコピーだな。
しかも、お客さんからクレームが来た時は、課長に任せて、自分はすぐ出張入れちゃうしな。

前の部長の時はそんなことなかったんだけどな。
朝礼は各部門の必要な数字だけを報告して、すぐ仕事に取り掛かれるようにしてくれた。
子育て中の女性社員が半日有給などを取りやすいように、業務をマニュアル化してサポート体制を構築しようとしてくれた。
業務のマニュアル化にはみんな猛反対してさんざん文句を言っていたけど。
クレーム処理で深夜残業になる時には、自分も残って梱包や宅急便配送などを手伝ってくれた。
コーヒーやお菓子の差し入れもしてくれたな。

その時はっと気が付いた。
実は前の部長は自身が防波堤となって我々を守ってくれていたんじゃないだろうか。
現場を知らない上層部のお門違いな指令を自分のところで吸収して、現場が混乱しないようにしてくれていたのでは。
きっとそれ以外の業務に関係のない雑用も一手に引き受けてくれていたのに違いない。
それなのに我々はヨレヨレのスーツから勝手にうだつの上がらない人だと判断し、幾多の改善案にも文句を言い、他部署ばかりを羨んでいた。
情けない。

帰り道、閉店した百貨店の前を通ると相変わらずシャッターは閉まったままだった。
屋上の看板を見上げると、丸い円が夕日に照らされて太陽のように金色に光っていた。