ショートショート:伝えられない想い

ショートショート

いつも喧嘩ばかり。
でも、心の中ではこう想っている。
愛している。

だが、彼女は俺がこう想っていることなど予想もしていないだろう。
無理もない。
もう結婚して30年ちかく経つし、お互い昔の面影はどこえやらだ。
子供たちが成長して家を出て行くまでは、父親と母親の役割に終始し、男と女という関係ではなくなってしまった。
家に二人きりになり、昔のように愛し合える状態になったが、どこか照れ臭い。
未だにパパ、ママだ。

ただ、不思議に時間の経過とともに愛おしい感情は強くなっている。
様々な困難を一緒に乗り越えてきたことで、掛け替えのない人であるという感情が強くなっているためだろう。
過去には泣かしたこともあったが、望みが叶うのならば全て帳消しにしたい。
男のエゴだな。

きっと俺の方が先に死ぬのだろうが、彼女には一生幸せに暮らしてほしい。
小さい頃の夢とか会社での出世とか、いろいろな目標があったが何一つ叶わなかった。
けれど、世界で一番いい女と結婚できたことで全て帳消しだ。
我が人生に一点の悔いもない。

今日もまた喧嘩した。
いったいいつになったら伝えられるのだろう。