今日は忙しいからランチはコンビニ弁当で済まそう。
デスクで弁当を食べながらネットニュースをチェックしていた。
「えっ、エディ・ヴァン・ヘイレンが亡くなったんだ!」
「まだ65歳か。若いな。がんだったのか…」
「懐かしいなぁ。学生時代はよくライトハンド奏法を練習したなぁ。全くうまく弾けなかったけど。」
俺は学生時代にギタリストを目指していた。
ただ単に女にもててカッコいいからだ。
当時の俺のヒーローはクラプトンとジミーペイジだった。
俺もあんなに速く弾けたらいいな。
毎日、学校をさぼって友達の部屋で練習していた。
ある日、友達の部屋に行くと、友達が何やら変な弾き方を練習していた。
「お前、何やってんの?」
「ライトハンド練習してんだよ。」
「なにそれ?」
「お前、ヴァンヘイレン知らないのか?」
「名前は知ってるけど、あまり聞いたことないなぁ。」
「遅れてるなぁ。これからはこれだぜ。」
友達がカセットテープを貸してくれた。
2曲目の「暗闇の爆撃」を聞いた時、これまで聞いたこともないサウンドとあまりの速さに驚いた。
「これ、どうやって弾いてるの?」
「こうやって右手でネックを強く叩いて音を出すんだよ。」
「なるほど。変わったこと考えた奴もいたもんだなぁ。でも、俺はジミーペイジみたいにクイーンってチョーキングする方が好きだな。」
あまり興味のないふりをした。
当時は今のようにYouTubeなんかもない時代で、実際の映像を見る機会はほとんどなかった。
だから、みんなレコードやカセットテープを擦り切れるほど聞いてコピーしていた。
いわゆる耳コピだ。
実際にエディ・ヴァン・ヘイレンがライトハンド奏法を演奏している姿を観たのは、それからだいぶ経ってからだった。
友達がライトハンド奏法をやっている姿は縮こまっていてあまりカッコよくなかった。
***
それから家に帰ってライトハンド奏法を来る日も来る日も練習した。
しかし、あまり上手く弾けなかった。
俺には合ってないな。
しかも、フォークギターだとあまり大きな音はしないし、ギターを上の方に持たないとできない。
ギターは膝上くらいに低く持った方がカッコいいからな。
まあ、ライトハンドなど一時のブームだろう。
そのうち、誰もやらなくなるさ。
しかし俺の意に反して、その後、プロアマ問わず世界中のギタリストがライトハンド・ウイルスに感染し、ライトハンドやらずんばギタリストにあらずの様相を呈してきた。
速弾きがもてはやされ、1小節に何個音符を入れられるかを競うように、スピード自慢のヴァンヘイレンもどきが雨後のタケノコのように出現した。
今にして思えば、あれが生まれて初めて目の当たりにしたパラダイムシフト又はゲームチェンジャーだった。
***
午後の始業のベルが鳴った。
たしか来週から開始するテレワークの管理職向け説明会だ。
コロナ禍の影響でバリバリ内資系の我が社もいよいよ在宅勤務を実施するらしい。
営業は足で稼ぐと豪語していた我々おっさん連中は来週から何をするんだろう?
会議室に入ると、見慣れた顔ばかりだった。
前の演者席にはIT会社のコンサルらしき若くて賢そうな女性と上司らしき男性が座っていた。
時間になり女性が口を開いた。
「みなさま、お忙しいところお集りいただきどうもありがとうございます。これから、来週から始まるテレワークについて、実際のやり方やPCの設定方法などについてご説明させていただきます。困惑されている方もいらっしゃるかも知れませんが、いつもみなさんが使っているシステムとそんなに変わりませんのでご安心ください。」
いかにも弁が立ちそうな女性だ。
きっとデュエット誘っても断られるな。
それ以前に時間外の上司との飲み会には来ないだろうな。
それにしてもノートパソコンのキーボードを叩くスピードが物凄く速くて惚れ惚れするなぁ。
しかもブライドタッチだ。
俺達のような一本足打法とは違うな。
来週からは家のPCで仕事をするらしい。
会議やお客さんとの打合せもオンラインでやるらしい。
ルート営業はできても新規開拓は難しいな…
早くコロナが収束して元に戻らないかなぁ。
R. I. P. エディ・ヴァン・ヘイレン
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